この作品は18禁SS投稿サイト「東方夜伽話」に投稿されたものです。









注意事項
・パチュリー×妖夢 (誰得)
・キャラ崩壊
・稚拙な文章力
・百合
・18禁


それでもいいという方はどうぞ

















「珍しいお客さんね」

声の方を見ると、図書館の主がテーブルの上に山と積み重なった本の隙間から、こちらに目線を向けていた。
紅魔館、図書館。
私は初めて訪れたが、かび臭さと埃臭さ、それと本の糊の匂いで構成されている空間だった。
その天井は普通のそれよりは遥かに高く、同様に高く並ぶ本棚からも蔵書量の多さが感じ取れる。

「お久しぶりです、パチュリーさん」
「ええ、久しぶり妖夢」

私の姿を認めると、そのまま本に視線を戻す。
なんだか邪魔をしているようで気が引けたが、思い切って用件を切り出す。

「ええと……実はですね」
「紅魔館の住人以外の誰かがここに来る理由はそう無いわ。本を借りに来たのでしょう?」
「え、ええ……幽々子様が何か面白い本をと。あとできれば料理の本もあればお借りしたいのですが」
「まだいいとは言ってないわよ」
「あ、すすすみません……」
「くすくす……冗談よ。そんな泣きそうな顔しないでちょうだい。ちゃんと返してくれるならいいわ。ま、あなたなら大丈夫でしょう」
「あ……ありがとうございます」

どうもこの館の連中は苦手だった。
何を考えているのかわからない癖のある連中ばかりだし、皆が皆私よりも上手だ。
そもそも幻想郷にはそんな連中しか居ないのだけど、ここは特にその色が濃い。
まともなのは門番ぐらいのものだろう。

「特に決まって無いのなら何か紹介しましょうか?」

パチュリーは本から視線をそらすことなく呟いた。
実際私も何を借りようか困っていたところだ。
何か面白い本と言われてもピンと来ないし、渡りに船だった。

「そう……ですね……お願いできますか?」
「オーケー」

言いながらパチュリーは指をパチンと鳴らす。
呼ばれて出てきたのは、いつからそこに居たのか赤髪の少女が本棚の影から姿を現した。
あれ……そういえばそういえば私は今だ彼女の名を知らないな。

「さて、どんなのがいいかしら?漫画?小説?歴史・ミステリ・ホラー・ロマンス・エッセー・古典・詩歌・評論・伝記・神話・哲学・宗教・心理学。あとは大人の本もあるわよ?」
「は、はぁ……」

あまりにも矢継ぎ早に繰り出されるジャンルに面食らってしまった。
というより、彼女がこんなにも饒舌なほうだとは思ってもみなかったのだ。
どちらかと言うとボソボソと原稿用紙一行分程度の台詞を繰り出すような印象しかなかったのだが。

「……で、では恋愛の話なんかありますか?幽々子様はそういった本が好きなので。悲劇やら喜劇やらの種類は問いません」
「恋愛か……。小悪魔、L75の12-Aから本持ってきて。オータムブランチとブラッドピジョン。残りはあなたにまかせるわ」
「わかりました。少々お待ちください」

そういって赤い髪の小悪魔は本棚の奥へと消えていった。
その間手持ち無沙汰となって、適当にその辺の本棚を見る。
魔道書なのか、読めない文字の本ばかりだった。
ちらりとパチュリーの方を見てみるが、彼女は本に集中しているようでこちらに見向きもしない。
魔理沙からは、客人にはかまってくれる方だと聞いていたが、どうやら人によっては違う反応のようだ。
比較対象があの魔理沙なので、ある程度信頼されているのだろう、という風にも受け止められたが、少し寂しいのものある。

「ふむ……しかし」

本を読む姿が様になるものだ。
まるでそれが自然の事象であるかのようにページをめくる指先。
外に出ることが無いからか、白く透き通るような肌と、華奢な体つきは、可愛さと同時に病的な儚さを併せ持っている。
目の下に少しできている隈と、寝巻きのような衣装が勿体無いと思えた。
そこまでやると入院患者に近い。

やっと小悪魔が戻ってきたとき、その両手に抱えられた本はそれなりに重そうな量だった。
それだけだったらよかったのだが、それに加え彼女の両脇には魔法で浮遊している本の塊があった。
両手に抱えた本を遥かに超える分量で、どう持ち帰ろうかと首をひねる。
自前の包みでは大きさが足りそうにない。
もっと大きめのふろしきでも借りたほうがいいだろうか。

「なにをさっきから唸ってるの」
「や、正直これほどの量とは思ってなかったのでどうやって持ち帰ろうかと……」

数瞬の間を置いて、やれやれという声がパチュリーの口から漏れる。

「何も全部持ち帰る必要は無いでしょうに。あらすじと冒頭だけ読んで気に入りそうなのを選べばいいわ」
「え……あ、そうでしたね。すみません、私はどうも考え方が一方通行で」
「……まあ、あなたらしいけれど」

またくすくすと笑われ、私も一緒になって愛想笑いを浮かべる。
自分がそういう性分なのは自覚していたので笑われること自体は慣れている。
そんな時、わたしはいつもこうやって愛想笑いを浮かべ、お茶を濁すのだった。





粗方のあらすじを流し読んで持ち帰る本を決めた。
どれも面白そうだったが、全部持ち帰るとまた大変な量になりそうだったので、選別した本のうち、さらに半分に減らすことなった。
そしてさらに洋菓子の作り方が書いてある本を数冊借りていくことにする。

「記帳はいいんですか?結構借りてますけど」
「いいわ。私も小悪魔も全部覚えてるから」
「す、すごいですね……この量を……」

やはり本が好きなんだろうな。
私も好きなほうだが、そこまではなれそうにない。

ではありがたく借りていきます、とその日は図書館を去った。
結局最後まで、彼女は本から視線をそらさなかったなぁと、重たい本を抱えながらぼんやりと思った。






三日後、私は再び図書館を訪れた。

「あら、意外と早かったわね」

三日前と本のタイトル以外全く変わらない姿で彼女はそこにいた。
幽々子様は借りてきた本を貪るように読んでしまった。
時々赤面して、キャーキャーと声をあげながらも、面白い面白いと一気に読んでしまったのだ。
あの方が食事以外でそこまで真剣になるのは珍しかったが、確かにそれだけ面白い本ではあった。
なんだかんだ言いつつ、私も一気に読破してしまったのである。
おかげで寝不足で目の下に隈ができてしまった。
睡眠不足はお肌に悪いのに。

「いやあ本当に面白くてですね。一気に読んじゃいました」

それから借りた本の内容についてパチュリーとしばらく語り合った。
あそこであんな台詞を言われたらたまらないだとか、ヒロインにちょっかいを出す男がどうだとか、友人がかわいそうだとかそんな話。

「お気に召していただけたようで嬉しいわ」
「ええ、大変。何ていうか、どれも胸がきゅーってなって何とも言えない感じがして。文字だけでこんなにさせてしまう本って初めてですよ。ほんと、どれも素晴らしい本でした」

少し驚いたような顔をして私の方を見たパチュリーは、目をぱちぱちとさせた。
やがて柔らかい笑みを浮かべて

「……よかったら、また借りてく?」

と言ってくれたのだ。
なんだかやっとこちらを見てくれたのも、向こうからそう言ってくれたのも嬉しくて。
その控えめな声があまりにも可愛くて一瞬心臓が高鳴ったのを誤魔化したくて。

「……是非!」

と、元気な声で返すことしかできなかった。







私が図書館へ通いだしてから、はやくも一月が経った。
今日は昼食後に向かい、二時間程話し込んでしまった。
ついつい時間を忘れそうになるが、夕食の準備もあるからと、戻ってきた。
白玉楼の夕食は仕度からして早めの準備が必要だ。
何せ幽々子様が幾人分もの料理を平らげるので、二人とは思えぬ量を作る必要がある。
さらに、料理の質も維持しなくてはならないが、そこが腕の見せ所でもある。

「堅く~鋭く~妖しく~眩く、光放つ~♪」
「あらあら上機嫌ね、妖夢。何かいいことでもあったのかい?」
「え、わ、幽々子様」

鼻歌ならまだしも、歌付きとは恥ずかしいところをを見られてしまった。
また宴会のネタにされそうである。
無かったことにしようとして、規則正しく包丁の音を立てながら話を続けた。

「い、いいこと……ですか。特にありませんよ。今日も本を読むのが楽しみなだけです」
「あれは面白いものねぇ。昔を思い出すわ。最近図書館の方で話し込むことも多くなってきたようだから、紅魔館の人となにかあったのかなと思っただけよ」
「申し訳ありません。帰りが遅くなりまして」
「かまわないわよぉ。妖夢の人生だもの、やるべきことをやってくれていれば、あとは好きなように生きなさい」
「半分死んでますけどね」
「それは言いっこなしよ」

幽々子様は袖で口元を隠して上品に笑った。

「今日はパチュリーさんがですね。持って行った桜餅をこんなにおいしいのは食べたことが無いと言ってくれまして」
「当然よ。あの味はメイド風情には出せないわ」
「あはは、幽々子様も好きですからね。でもパチュリーさんは、なかなか笑わない方ですし、洋菓子派だったので少し不安だったんですよ。それだからか余計に嬉しかったんですけどね」
「いい友人なのね。あなた結構おっちょこちょいだから迷惑かけてないかしら」
「……むー、その辺は自覚があるのでちょっと否定できません」

夕食の仕度をしながら、紅魔館でのことを話した。
パチュリーが、意外と可愛いところもあったりするとか、いつも本を見てばっかりだとか。
幽々子様は終始笑顔で話を聞いてくれた。
一通り話し終えると、パチュリーのこと随分気に入ってるのねぇ、と幽々子様は漏らした。

「……そう、ですね。そうかもしれません」

言われて気づいたが、私はパチュリーのことをかなり気に入っているようだ。

「でも、私はやはり白玉楼の庭師です。私にはここが一番大切ですよ、幽々子様」
「…………」

幽々子様はそれを聞いて目を閉じ、着物の袖で口元を隠した。
笑っているのだろうか。
それにしては、寂しそうな目をしていた気がした。







それからもしばらく図書館の利用は続いた。
幽々子様はさすがに少し飽きてきたのか、読むペースもかなり衰えていたのだが、私はまだ読み足りないぐらいだった。
何せあの蔵書量だ。
次々と本が出てくるが、全然尽きやしない。
それに私はパチュリーと、読んだ本の話をするのがとても好きだった。
あーだこーだと意見を交し合うのは楽しみの一つ……というより、もう目的の半分以上はそっちになっていたかもしれない。

「でも不思議ですね。パチュリーさんの本を読んでいると魔法でもかけられたみたいになっちゃいますよ。まるで本当に恋してるみたい」
「なに言ってるの、本は魔法よ?書き手が読み手にかけた魔法。私はその魔法に身を浸すのが大好きなの」
「なかなか詩人ですね」
「妖夢こそ」

二人して笑いあう。
あれから大分仲良くなったとは思う。
しかし、それでも彼女は本から視線を外すことは稀だった。
私という存在は、一冊の本に負けるのか、と思うときもある。
というか図書館に来るたびにこんな思考に陥るのだが、その度にこんな考え方はいけない、と頭を振る。
最近どうしてだか、こういったもやもやとした気持ちになることが多い。
でもパチュリーも悪いのだ。
魔理沙やアリスが来た時は結構彼女らのことを見てると思うのだが、私のときは一日居ても一度あるかないかぐらいだ。
魔理沙のように悪行を働けばいいのかと若干血迷った考えが浮かんだこともあったが、流石にそれは違うだろうと否定を繰り返す。
結局私の考えは独りよがりで図々しいだけだと、すぐに頭を切り替えることにする。

「いいなぁ……私も恋してみたいですよ……」
「……好きな人居ないの?」

私には、特に想い人というのは居なかった。
幼いころより白玉楼をあまり出ることがなかった私には、そういう機会も少なかったのだ。
今はこうして頻繁に顕界に来ているものの、未だそういう機会とは無縁だった。

「お恥ずかしながら。私はあまり交友関係は広くないもので、パチュリーさん以外のご友人もほとんど居ませんし」
「……そっか」

パチュリーは何事かごにょごにょと呟いた後、そうかそうかと頷いた。

「でも、私には白玉楼に……幽々子様に仕えなくてはなりませんから。まだまだ未熟な私には、恋に現を抜かしている暇も無いですしね」
「……妖夢らしいわね」
「あはは、我ながら困った性格です。あ、そういえば借りた本を見ながらチェリーパイを作ってみたんですけれど、味見してもらえませんか?幽々子様は何を食べてもおいしいとしか言ってくれませんから」
「うん、いいわね。頂こうかしら」
「ここのメイド長ほどの腕はありませんが」

と、パイを出したところで、既に紅茶のポットを用意して控えているあたり、やはり咲夜の仕事ぶりには感心するしかない。
幽々子様にお仕えする身としては、見習うところばかりである。
和風料理なら負けない自信はあるが、総合的なレパートリーの多さでは負けているだろう。
庭仕事にいたっては門番の管轄だし、しかもあれでなかなかの庭園を築いている。
門番より庭師のほうが向いている気がするが、本人にそれを言うと趣味を仕事にしたくないそうだ。

切り分けたパイのサクサクとした食感と、香ばしい香りが口の中に広がる。
咲夜にはちょっと火が強かったみたいねと言われてしまった。
洋菓子に関しては彼女の右に出る者はいない。
次からは気をつけるようにしよう。
パチュリーは小さな口でもくもくと食べて、まあいいんじゃないかしら、と紅茶を口にした。
紅茶を嚥下した時に、パチュリーの白く細い喉と、痩せっぽちで浮き出た鎖骨が、不意に目に飛び込んできてどきっとする。
こんなにもか弱い少女してるのは正直ずるいと思う。
ティーカップを持つ指先すら、細く弱々しい。
私の場合、近接戦闘に特化した身体のつくりをしているので、どちらかと言えば筋肉はしっかりとしているほうだったりするのだが、やはり魔法使いに走り回る筋肉は必要無いのだろう。
私にも胸がもっとあればそんなこと気にしないのにな、とひとりごちる。

「ところで、パチュリーさんはいらっしゃるんですか?」
「何が?」
「好きな人」
「ふぇ?」

三秒ぐらいそのままで固まっていたと思う。
みるみるうちに真っ赤になったパチュリーは、えーとかあーとかうにゃーとか言って口ごもる。
そしてしばらくして本に顔を隠したかと思うと、消え入りそうな声で、居ない、とだけ呟いた。
……どうしよう、可愛すぎる。
鉄面皮とまではいかないが、表情があまりころころと変わるほうではないパチュリーは、たまに見せてくれる素の表情がある。
そういう顔を見ると胸がきゅんきゅんするというか、可愛いものを独り占めにしたような気持ちになるのだった。
……いや、だって反則でしょう、これは。
彼女にも好きな人がいるんだと思うと、素直に応援してあげたかった。
しかし、誰なんだろう。
少なくともパチュリーの中で本にも劣る評価の私ではないのはわかる。
少し、探りを入れてみようか。

「……そうですか。居ないんですか……」
「と、当然よ。私は本が恋人みたいなものよ」
「で、正直なところ誰なんですか?アリスさん?それとも魔理沙さんとか?」
「そ、それは違うわ!あの二人じゃないもん」
「ということはやっぱり居るんですね?」
「……っ!うぁぁ……妖夢のばかぁ!」

ぷいとそっぽを向いてしまうパチュリー。
しまった……調子に乗っていたら怒らせてしまった。
これはまずい。
何がまずいってパチュリーは一度こうなると結構根に持つタイプなのだ。
以前にも一度パチュリーの気を引こうとして同じようなことになったのだが、そのときは結局私が泣いて謝るまで許してくれなかった。
見れば今回もかなりご立腹な様子だ。

「あああの、すみません……つい興味本位で聞いてしまって……」
「……」
「ほ、ほんとにすみません……あの」
「……」
「えーと、そのー……許してくだ……さい」
「や」
「あぅ……」

取り付く島も無い。
怒った顔もかわいい、とか悠長に考えている場合ではない。
パチュリーが怒ってもう本を貸してくれないなんてことになったら。
その本の内容をパチュリーと話すことができないということになったら。
その二つは今の私にはもう許容し難いほど大きな問題になってしまっている。
それに何より、やっぱり笑っている顔のほうが好きだ。

「き、機嫌直して下さいよぅ……」
「やだ」

このままでは日が暮れてしまう。
幽々子様の夕食の仕度をすっぽかし、狂乱の怒りを買うのも御免である。
ええと……なにかいい手は……そうだ、読んだ本の中ではこんなときどうしてたっけ……?
た、確か……

「そ、そんなに怒ってたらかわいい顔が台無しですよ……?」
「――――っ!?」

あ、なんか戸惑ってる……?
この感じでもうちょっと押してみたらいいのかな。
そう思い、スッとパチュリーの手を握る。

「ちょ……よ……」
「どうか怒らないでください。私の大好きなあなたの顔が、怒りに歪められるのは耐え難いのです」
「あぅうぁあああうぉおお……」

今私は生まれてきて一番恥ずかしいことを言っている。
握った手や自身の顔がとてつもなく熱い。今にも発火しそうだ。
きっと今私の顔はさくらんぼのように赤く染まっているだろう。
恥ずかしくてパチュリーの顔をまともに見れない。
少々やってしまった感はあるが、でもここまでやって途中でやめるわけにもいかない。
えーと……次は何を言ったらいい?どうしたらいい?
確か……と、思い出しながらパチュリーの顎に手を沿え、顔を近づけ……

「唇を奪っ……」
「んなーーーーーーー!!!!」

ゴン、という100kgぐらいの鉛が落ちたような音を最後に、気を失った。







かつてこの紅魔館で伝説の武器、あるいは必殺の一撃と言われたものがある。
その一撃は天を震わせ、地を割き、悪魔ですら裸足で逃げ出したという。
あらくれものには決して使えぬ由緒正しき知識の槌。
名を、ノーレッジハンマーという。
その犠牲者がまた一人、幻想郷の歴史に刻まれた。

「って現実逃避してる場合じゃない……!」

荒い息を整えながら、緊張から解かれた解放感と同時に、それ以上の焦燥感に追われる。
うわ、やばい、これ、どうしよう。
あんなことするから思わずやっちゃったけど……妖夢怒ってないかな……。
とりあえず白玉楼まで連絡を入れたほうがいいかしら……。
これやるとレミィでさえ簡単に目を覚まさないし。

「あらあら、最後までいっちゃえばよかったのに」

声のほうを見ると我が友人である吸血鬼がニヤついた表情でこちらを見ていた。
今日はいつものドレスではなく、デニムの短パンに白のシャツというラフな格好だ。
ちなみに短パンは完全に咲夜の趣味である。
月に一度ぐらいの頻度で、メイド長は職権を乱用する。

「あそこでノーレッジハンマーとは、罪な女ねえ」
「あら、レミィもして欲しいのかしら?」
「いやいや、遠慮しとくわ」

ケラケラと笑うレミリア。

「素直じゃないわねぇ」







以前から可愛いなとは思っていた。
真っ直ぐに伸びた、細くて柔らかい髪と、凛々しい横顔。
でも凛々しいだけじゃなくて、ちょっと頼りないようなところもあって、そのアンバランスさが印象深かった。
宴会で見る程度ではあったのだが、なんとなく覚えているのは、きっとその頃から気になっていたのだろう。
彼女が図書館を訪れたときは、正直結構うれしかったものだ。
少し調子に乗って饒舌になってしまったりもした。
知り合ってからの彼女は、少しからかうだけで表情がくるくると変わって面白かった。
そのくせ、頭が固いというか、一度考えたことをよく考えもせずに突っ走って、突拍子もないことをする。
いきなり手を握ったり、恥ずかしい台詞を言ったりと、こっちとしても気が気でない。
すぐにまともに顔が見れなくなるまで好きになっていって、そこに居るだけで本にも集中できなくなって。
この私が本の内容が頭に入ってこないというのはかなり稀有な話だ。
存在意義の否定ですらある。
そうやって、彼女は少しずつ、私を狂わせてしまったのだ。

倒れた彼女を見ているだけで心臓が高鳴った。
自室へ運び氷のうを患部当てる。
う……と少しだけ呻いたが、目は覚まさなかった。
こんなに長い時間、近くで彼女を眺めていることは初めてだ。
図書館では、いつも恥ずかしくて本ばかりを見ていたから。
本当に綺麗な髪をしている。
柔らかくて、細くて、指が抵抗無く通る。
ふと、この柔らかそうな頬をつつきたい衝動に駆られる。
どうしよう、やってしまおうか。
躊躇は一瞬。
……やってしまえ。

ぷに。
ぷにぷに。
ぷにぷにぷにぷに。
ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに
あ、なんかはまりそうかも。

「う……ん……」
「ッ!?」

心臓が止まるかと思ったが、どうやら目を覚ましたわけではなさそうだ。
もうやめておこう、これ以上は危険だ。
自分にも、彼女にも。

「でも最後に……」

ちょっとキスとか、してみたかったな。







遠くから聞こえるにぎやかな声に目を覚ますと、側頭部に鈍器で殴られたかのような痛みを覚えた。
覚えが無いが、どうやら私はベッドに寝かされているらしい。
鈍痛に顔を歪めながら、ゆっくりと身体を起こした。

「よかった……目が覚めたみたいね」

見ると、パチュリーがベッドの横に座っていた。
胸に手を当て、安堵の表情を浮かべている。

「あの……これは一体……」
「お、覚えてない?」
「うーん……今朝からの記憶が曖昧で……。なんだか頭が異様に痛い以外は、特には」
「そ、そう?あー、実はね、小悪魔の奴がポカしちゃって、運んでいた大量の本があなたに降り注いだのよ」
「うーん……そうなんですか。ご迷惑をおかけして申し訳ない」
「き、気にしないで……悪いのはこっちだし、あはは……」

ぎこちない笑みを浮かべるパチュリー。
やはり相当大変な事態だったのだろう。
あまり気を使わせても悪いので残りは心の中で謝ることにした。

なんとなく枕を抱きながらあたりを見ると、広めの個室だろうということがわかった。
壁際には本棚が並び、一棹だけ設置されたクローゼットと、隣の姿見の居場所を圧迫している。
角に設置された机には、栞を挟んだ本が積まれており、金色で描かれた本のタイトルを薄暗い照明が照らし出していた。

「……ここは?」
「私の部屋だけど」

なるほど、言われてみればそうらしい。
部屋の空気が図書館になんとなく似ている。
あの図書館からかび臭さを掃うと、こんな感じだろう。
確かに、手に持った枕を嗅ぐと、パチュリーの髪と同じ香りがした。

「ちょ、ちょっと……何やってるのよ……!」
「え?」
「ま、ま枕を……その……」
「……あ、い、いやこれはその別に特に意味があるわけでは……!なんだか衝動的に嗅ぎたくなったというかですね……!」
「しょ、衝動的にって何よ……!普通ならないわよ、そんな……」
「いや、あの大丈夫です!いい匂いでしたよ!?本当に!」
「――ッ!?いい匂いって……あぁもう……だからあなたは……!」

やばい……このままでは怒らせてしまう。
また謝っていて帰りが遅くなっては、お腹をすかせた幽々子様に何をいわれるか……。
……あれ?

「そ、そういえば今何時ですか!?」
「……まったく。午後七時過ぎだけど……」
「ああああああああぁぁぁぁ………………!!」

呪詛のごとき声を上げて唸った。
こ、殺される………………!
このままでは確実に幽々子様に殺される!

「すみません、急いで帰らなくてはならなくなりました……!」
「あー、幽々子ならウチに来てるわよ?」
「そうですか、ではまた!」

布団を跳ね除け、脇に立てかけてあった二振りの刀を手に取る。
床を蹴り、ドアノブに手をかけ、廊下への扉を開け放ったところで、ようやくパチュリーの言葉の意味に足を止めた。

「……今なんと?」
「だから幽々子なら今紅魔館に来てるの。あなたが倒れたから連絡を入れたのよ。その時にウチ来る流れになっちゃったみたい」
「……えー」

おおかた夕食に困り果てて、そう言ってもらえるよう仕向けたのだろう。
幽々子様はそういう所には妙に気が回る。
ということは先程から聞こえているこの声は皆が食事中というわけか。
この館の連中も幽々子様の食事を面白がって見ていることだろう。
料理を作る咲夜は大変だろうが。

「パチュリーさんは……行かないんですか?」
「いいのよ、そもそも私の責任だし、時々しか食事は取らないしね」
「いや、でも」
「デモもリプレイも無いわ。私がいいというのだからいいのよ。それに――――」

パチュリーはそこで急にハッとしたような顔をしてぷい、とそっぽを向いた。
こころなしか顔が赤くなっている気がするが、気のせいだろうか。

「……あ、あなたの間抜けな寝顔見てるのも面白かったわ」
「うわ、それ軽く傷つきます……」

くすくすと微笑を浮かべるパチュリーを見ると、何だか安心した。
ああは言っているが、きっと私のことが心配で看ていてくれたのだろう。
本と離れたことがないような彼女の手元に、今それが無いのがなんだかうれしかった。







相変わらずの食欲魔人は、紅魔館のあらゆる食材をその胃に収めた。
どことなくげっそりした咲夜と、唖然としたレミリア達がその惨状を物語っている。

「妖夢……少しあなたのこと見直したわ……」
「咲夜さん、すみません……今度何かでお返し致します……」

従者の同士の悲しい会話である。

「妖夢ったらもっと食べればいいのにー。おいしいかったわよ、ここの食事は。またご馳走になりたいものねぇ」
「はは……紅魔館はレストランではありませんので……」

やや引きつった笑顔で咲夜が答えた。

「ところで……わたしも図書館を見てみたいのだけれど、いいかしら?」
「幽々子様が?」

図書館を見たいとは一体どういうお考えなのだろう。
行ってもいいでしょうか、とパチュリーのほうを見る。

「それは……別に構わないけれど」
「案内してくださるかしら?」
「……食べ物は無いわよ?」
「あらぁ、知的好奇心よぉ」

幽々子様はおそらく笑っているのであろう口元を、着物の袖で隠しながらパチュリーについていった。
図書館の大扉を開け、中へと入る。
やはりこの本棚の数は何度見ても圧倒される蔵書量だ。
すっかり嗅ぎなれたかび臭い図書館へ、私とパチュリー、幽々子様、小悪魔の四人は入館した。
ほんとにすごい量ねぇと、幽々子様はトーンの変わらない声で感想を漏らした。

「しかし一体どうしたんです?図書館が見たいだなんて」
「んー、妖夢があんまり楽しそうに話すものだから一度見てみたくなってね」

そういうものだろうか。
いつまで仕えても、やはりこの方はわからないところが多いなぁ、とは思う。
くるりくるりと幽々子の目が館内を見渡す。
そしてそれは、ある一点で止まった。

「妖夢とパチュリーは、いつもあそこで?」

目線の先には、いつも私たちが座る机がある。
たまに持参するパイや桜餅なども、あそこで食べていた。

「ええ、そうですが……」
「ふぅん……」

意味深な笑みだ。
こういう笑みを浮かべるときは、何かいたずらを思いついた時とだいたい決まっている。
そしてその被害者はほぼ私である。

「適当に見学してもいいかしら?」
「構わないわ。ただし結界より奥の魔道書には触れないでね、危ないから」
「ええ、ではでは~」
「あ、幽々子様。私も行きます」
「妖夢はいいの。ここでパチュリーとお話してなさい。すぐに戻って来るから」
「え……は、はぁ」

案内にこの子借りてくわね、と小悪魔を連れてゆらゆらと奥へと消えてゆく。
若干嫌な予感がするのだが、まあいくら幽々子様でも本を傷めるようなことはすまい。

「あの、すみませんね……幽々子様が……」
「本さえ無事ならそれでいいわ。あの子も付いてるし」

そう言ってパチュリーはいつもの席に腰掛ける。
幽々子様が少し不安ではあるものの、私もパチュリーの後を追って席につくことにした。

半刻ほど経って、幽々子様が小悪魔と談笑しながら戻ってくると

「妬けちゃうわねぇ」

と一言漏らした。
何の本を読んでいたのだろう。

「さて、じゃあ私は帰るわ。お邪魔したわね、パチュリー」
「ええ、今度来るときは食材持参でね」

相変わらず本から目を逸らさず、パチュリーは皮肉を口にした。
ではまた、と幽々子様に付いて、私も図書館の入り口に向かって歩き出した。

「あら妖夢は違うわよぉ。今夜はここで泊まっていきなさいな」
「「……は?」」

と、パチュリーと同時に素っ頓狂な声を上げた。
幽々子様の提案が唐突過ぎて一瞬頭がついてこなかったのだ。

「いや、しかしそれでは白玉楼の……」
「一日ぐらい大丈夫よ。朝ごはんぐらい何とでもなるんだから」
「……そ、それでもあまりに急な話です!紅魔館の皆に迷惑がかかりますよ」

そうですよね、とパチュリーに同意を求めるが、当人はぽかんと口を開けたまま返事が返ってこない。

「あら、レミリアからのお誘いよ?私は用事があるから帰るけれど、妖夢だけでも泊まっていきなさいな」
「うう……幽々子様、今度は一体何を企んでいるんですか?」
「ふふ、なぁんにも。たまには羽目をはずしてお友達の家にお泊りしてきなさいってことよ。それとも嫌なの?」
「……そうでは、無いです、けど」

外泊とは無縁であったし、パチュリーの住むこの館に泊まれるなら嬉しい。
レミリアからの誘いというあたりは胡散臭かったが、その時パチュリーの私室に居た私たち以外は周知の事実のようだ。
小悪魔さんもその辺は本当のことだといっている。
しかしその表情が若干ニヤついているのは気のせいだろうか。

「はぁ……ではせっかくのご好意なので甘えさせていただきます」
「ええ、甘えさせてもらいなさい。それじゃ」

そうして幽々子様は図書館から姿を消した。
泊まることに関しては、ひとまず咲夜さんあたりに聞いておいた方がいいだろう。
ひとまず何故だか呆けていたパチュリーを揺り起こして、二人でリビングに戻ることにした。
そこには紅茶を楽しむレミリアと、脇に控えた咲夜の二人が居た。

「お、そろそろ来るころだろうと思っていたよ」
「ちょっとレミィ、泊まるってどういうこと?」
「いいじゃないか、たまには。そこに居るってことは妖夢も納得したんだろう?それをわざわざ追い返すことはない」
「……それはそうなんだけど」

まだパチュリーは釈然としないようだった。
……そんなに私を泊めるの嫌なのかな。
私としては結構嬉しいんだけど。

「……はぁ、わかったわ。それで咲夜、部屋はどれを使えばいいの?」
「あら、別室をお使いになるんですか?てっきり同じお部屋かと」
「……へ?」
「お泊りと言ったら一緒に寝るのかなと。まあ、実は今大掃除中で部屋が空いてないのもあるのですが」
「じゃあなんで今日泊めるとか言い出したのよ……!」
「それ言ったのお嬢様ですし」

パチュリーは一気にまくし立てるが、ひらりはらりとそれをかわす咲夜。
ああやっていなす能力は見習うべきだろうか。

「まあそうは言っても他に選択肢もないので。パチュリー様も覚悟を決めてください。いいじゃないですか、一緒に寝るくらい。」







「ふ、不束者ですがよろしくお願いします……!」
「うぇ!?あ、いやいやこちらこそ……」

大変なことになってきた。
どのくらい大変かっていうと二人とも何故か緊張して言葉使いがおかしいし、三つ指ついてお辞儀なんかしてるし、新婚初夜かお前らという突っ込みが入りそうなぐらいの大変さである。
楽しくおしゃべりできればなーとか考えていた自分はどこへやら。
というか帰ってきて、少し前の自分。

「で、では、失礼します」

だめだ。
やはり思考が正常でない。
同じ布団に入るだけでこんなにも緊張するのは、やっぱり私がおかしいのだろうか。
幸いにもベッドは大きいので、二人でも狭いだとか変に密着することはない。
ガクガクとした動きでゆっくりと布団に入ると、パチュリーの顔が目の前にあった。
普段着とあまり変わらないネグリジェ姿で、風呂上りだからか、赤みの差した顔で仰向けになっている。
じっと見ていると変な気分になりそうだったので、あまりパチュリーの領域を侵さないように、ベッドの端っこで背中を向けた。
――――沈黙。
長い沈黙が下りた。
二人とも話すことが無いわけではないはずなのだが、頭の中が真っ白でついてこない。
無理だ。
だって、今後ろを向いたら我慢ができなくなり――――。

「――――っ」

心臓がはねた。
胴に重みが加わる。
パチュリーの腕が私を後ろから抱いていたのだ。
喉がカラカラになる。
すぐ後ろにパチュリーが居る。
とてもじゃないが振り向けない。
息遣いすら聞こえる距離で、私たちはなおも無言の時間を過ごす。
心臓の音がうるさい。
さっきから衣擦れの音すらしていないのに、世界が音に満ちている。
眠ろうとは思うが、眠れない。

「妖夢……聞いて、ほしいんだけど」
「あ、――――ぃ」

消え入りそうなパチュリーの声に、うまく返事ができなかった。
呼吸すらままならない。
落ち着け。
緊張しすぎだ。
これだから私はまだ未熟なのだ。
平常心を保て。
まずは振り返ろう。
背中を向けたままでは失礼だろう。
勇気をふり絞って振り返ろうとする。
だがそれを後ろからパチュリーに阻まれた。

「その……こっち見ないで。見られてたら言えない、から」

もう限界ギリギリだった心臓がさらに加速する。
視界に捉える景色がゆがんで見えた。
私は返事もできず、ただパチュリーの言葉の続きを待つ。

「その、なんていうか……へ、変な話なんだけど……え、と…………」

すーっと、一回深呼吸する音が聞こえる。

「好きでした。付き合ってください」

……って言ったら、どうする? と小さく付け加えた。
思考がフリーズする。
得た情報をどう処理していいのかわからない。
でも答えなくちゃいけない。
ここで沈黙を守るのはいけないと、本能が告げる。
振り返りパチュリーのほうを見ると、ゆでだこのように真っ赤な顔をしていた。
だがパチュリーは潤んだ瞳で手を伸ばし、その指が私の下唇をなぞる。
ぞくり、と背筋に何かが走った。
互いの顔が近い。
私の頬にパチュリーの鼻が当たっている。
それをじゃれるように、こすりつけるように、パチュリーは微かに動く。
理性が持っていかれそうだった。

「ええと、そ、それは恋人という意味でしょうか」
「……うん」
「女同士ですよ?」
「関係ないわ」
「でも……」
「……やっぱり嫌?」

しばらく……考えた。
私がパチュリーに対して思っていること。
可愛いとは思うし、大切な人だ。
私の心のウェイトを大きく占めている。
ただこれは恋と言っていいのか。
友人から恋人へ変わってしまってもいいのか。
いや、そんなことより一番大きな問題は、白玉楼に……幽々子様に心から仕える者として、許されざる裏切り行為ではないのか。
私は幽々子様の側でお世話をする使命がある。
祖父に託された大事な使命を、疎かにするわけにはいかない。
様々な不安が激流のように押し寄せる。
それを――――

「……わかりません」
「っ――――」

震えているのがわかった。
パチュリーも、私も。

「…………あはは、冗談よ、冗談。妖夢ったらホントにからかうと面白いんだから!」
「そ、そうですよね。冗談ですよね。またしてやられました……」

そうして、パチュリーは、静かに腕を放した。
ごそごそと離れて、背中合わせになる。
振り返れない。
恐ろしくてパチュリーの顔を見ることができない。
いくら私でも、今のが冗談か本気ぐらいわかる。
でも今の関係が壊れるのが怖くて、あんな曖昧な返事しかできなくて。
あれじゃ答えてないのと同じじゃないか。

…………今の私は、最低だ。







早朝に、目を覚ました。
白玉楼ではいつも薄暗いうちから起きていたから、その習慣だろう。
あの後声をかけようとして、タイミングを考えているうちに眠ってしまった。
パチュリーはどうやらまだ眠っているようだ。
寝顔を見てみようかなと思ったが、昨夜の光景がフラッシュバックして身体が止まる。
堅く握り締めたシーツが、くしゃくしゃになっていることが目に焼きついて離れなかった。
パチュリーの側に居ることは、今はちょっと耐えられそうにない。
お礼と謝罪とだけ、書置きをしてここを出よう。
……逃げるんじゃない。
必ず答えを持って帰ってくるから、待っていてほしいと。

「ありがとう。その気持ちは嘘偽りなく嬉しい。でも、もう少し待っていてください」

静かに紅魔館を出た。
明け方のこの時間は、妖精門番から美鈴に交代する時間だ。
基本的に吸血鬼の館に、夜に攻めてくる輩は居ない。
日中だけ美鈴が門前に立っていれば、あとはほぼ安心なのである。
もっとも、最近ではそういった輩も居ないようだが。
美鈴は瞑想しているのか、目を閉じて門前に立っている。
シエスタが得意な門番ではあるが、今の空気は気が抜けているという感じではなかった。
ここを気づかれずに通ることは、恐らく不可能だろう。

「お疲れ様です。美鈴さん」
「おや、おはようございます。もう帰られるんですか?」
「ええ、お世話になりました。では……」
「……?」

門を通り過ぎる。
今からならまだ幽々子様の朝食の仕度に間に合うだろうと考え、白玉楼に向かって飛翔しようとしたとき、

「何を迷ってらっしゃるんです」

突然の声に足を止めた。

「…………わかるものなんですか」
「ええ、まあ。何に迷いが生じているのかまではわかりませんが、そういう気の色をしています。ついでに顔にも出てますよ」

そんなにわかりやすいだろうか、私は。

「……この迷いが断ち切れたら、また来ます」
「ええ。その時は、歓迎します」







白玉楼の厨房では、幽々子様が自身で朝食の支度をしていた。
用意した味噌汁を、つまみ食いではなく味見している姿を見たのは、久しく記憶に無い。

「幽々子様、申し訳ありません。残りは私がやります。後は任せてください」
「あら、妖夢ったら早いのね。別にいいのよ、たまには料理もしないと忘れるもの。それより、楽しめたかしら?」
「ええ、もちろんです。お気遣い感謝します。」

美鈴のように容易く看破されてはならないと、笑顔で答える。
今思えば、数少ない私の言葉と、紅魔館で少しを見ただけで、幽々子様はパチュリーの気持ちに勘付いていたのだろう。
でなければあんなことを言い出すはずがない。

「………………妖夢、こっちはいいからあなたは先に食器の準備をしていてくれる?」
「はい、わかりました」
「それと」

幽々子様の、声のトーンが変わる。
滅多なことでは変わらない、いつも穏やかな声が。

「食事が終わったら少しお話しましょう」
「……はい」

もう、ばれている。
美鈴でさえ、わかったのだ。
付き合いの長い幽々子様にわからないわけがない。
喉が渇いて、手に嫌な汗がにじむ。
胸の奥がただ鉛のように重くなっていった。

「……相変わらず嘘が下手ねぇ、妖夢は」






じゃら、パチン。
じゃら、パチン。
一定の間隔で扇子が開いたり閉じたりを繰り返す。
いつも楽しげな会話が絶えない朝食は、今日は無言のままに終わった。
何か話そうとはしたが、とても楽しい話などできそうになかったし、幽々子様もそうしなかった。
食事の後、私は全てを話し、幽々子様はそのまま何か考えるように目を閉じた。

「…………それは妖夢が悪いわねぇ」

返す言葉も無かった。
曖昧な態度が一番きついのだ。
下手に希望も捨てきれないので、いつまでも引きずってしまう。

「妖夢、あなたはひとつ勘違いをしています」
「勘違い……?」

じゃら、パチン。
じゃら、パチン。
扇子の音が、妙に耳に残る。
規則正しいリズムで鳴っていたそれが、パチンと一際大きな音を立てて止まった。

「白玉楼の庭師、兼西行寺幽々子の剣術指南役、魂魄妖夢。これがあなたの肩書きよね」
「…………はい。私には、それが全てです」
「それが違うと言っているの」

幽々子様は扇子の先をこちらに向け、私を睨んだ。

「あなたはその肩書きにとらわれすぎている。私の世話?妖忌に託された使命?そんなものは投げ捨てればいいのよ」

私は幽々子様の言うことが理解できなかった。
私が一生をかけて全うしようとしたことを、投げ捨てろといわれたのだ。
いくら私が未熟とはいえ、いくら幽々子様とはいえ、許せないものがある。
未熟な自分自身をどうしようもなく恨んだ。

「何故ですか……!私が未熟だから!?どれも半端にしかこなせないから辞めろと言うのですか!?」
「違う。あなたは公私を混同してる。私も、妖忌も、そんなことは望んでないの。そりゃ私に尽くしてくれるのはありがたいけれどね。それで妖夢が幸せになれないなんてこと、あっていいわけ無いじゃい」
「ぁ…………」
「私たちは家族なのよ?身内の幸福を祈らない家族なんて居ないでしょう」
「……」
「妖夢。もっと、好きに生きなさい。私の従者だからという理由であなたが自由に生きられないというのなら、そんなものはやめていい。だから自分の気持ちに正直になって」

柔らかな腕に抱かれる。
視界が歪んでいた。
幽々子様が……私のような者のことをそんなに考えていてくれたことに。
暖かい気持ちに包まれて、私はただあふれてくる涙を押し殺し、喘ぐことしかできなかった。

「……落ち着いた?」
「っ……はい……申し訳ありません。……少し、考える時間を頂いても、いいですか?」
「どうぞ。今日のお仕事はお休みをあげるから」

考えよう。
白玉楼も幽々子様も関係のない、私自身の気持ちを。
私は……パチュリーのことをどう思っているんだろう。
自室に戻り、目を閉じ、正座する。
私にとってパチュリーは……
可愛くて、意外と優しいところもあって。
話の合う友人?
でももっと、私を見てほしいと思ったりもして。
本なんかに嫉妬までして。
あの目に私を捉えて欲しいと思う。
私だけを見て欲しいとも思う。
白玉楼でもふと気が付くと次に図書館に行くときの事を、パチュリーのことを考えて鼻歌を歌っている。
それはまるで――――

「――――なんだ。借りてきた本のままじゃないか」

すっかり魔法にかかってしまっていたことに、今更気が付いた。






夕刻、紅魔館の門前に降り立つ。
門番はもうそろそろ妖精メイドに交代といったところだろうか。
美鈴は珍しく目を開けて立っていた。
こちらに気が付いた美鈴は微笑みを浮かべ、中へ入るよう促す。
荘厳な意匠の門を通り過ぎ、紅魔館の敷地内へと足を踏み入れる。
階段を下り、パチュリーの部屋までの長い廊下を駆けた。
その途中に、レミリアが壁にもたれかかって待っていた。

「答えを聞こう。またパチェ泣かせるようならここで屠ってやる」

足を止める。

「貴女のことだ。もう、視えてるんじゃないですか?」

真剣な目で見つめる。
ふっ、レミリアは笑い、視線を逸らした。

「ちょっと姫を守るナイトを務めてみたかっただけさ」
「その役柄は似合わないですね。あなたは退治される側でしょうに。それにナイトは剣士と相場が決まっています」
「はいはい、なら早くいきなよ。ほんとにやっちゃうぞ」

軽く礼をして横を通り過ぎた。
ありがとう、レミリア。






私の目の前にある扉を開ければゴール、もうそこはパチュリーの部屋だ。
ドアノブに手をかける。
まずはじめに何て言おう。
謝るべき?それとも先に気持ちを伝えるべき?
謝るべきだとしたら何て言う?好きだと伝えるならなんて言えばいい?
言葉の取捨選択をしているだけで時間はどこまでも過ぎていく。
ドアノブを回し、扉を押し開ける勇気がなかなか出てこない。
考えるな。
考えずにただ押し開けばいいんだ。

「誰……?」

部屋の中からの声に驚きのあまりドアノブから手を離す。
気づかれた。
いつまでもこうして悩んでいるからだ、情けない。

「ええい、儘よ!」

扉を押し開く。
今朝からずっとそこに居たのか、ネグリジェ姿のパチュリーが布団の中から顔を出してこちらを見ていた。
目が赤いのは、泣いていたのだろうか。
パチュリーは私の姿を認めると、急いで布団で自身を覆い隠した。
一歩、部屋に足を踏み入れる。

「な……何よ……?一体何の用?」
「あの……どうしても言いたいことがあって……」

パチュリーのくぐもった声は、布団の中だからか、それとも別の要因か。
目の前にすると何を言えばいいのか急によくわからなくなる。
声がかすれた。
勇気を出せ。
私はナイトなんだろう、魂魄妖夢。

「パチュリーさん……昨夜は、その、すみませんでした……」
「…………っ」
「その……私が責任をもって――」
「いらないわよ……」
「……え?」
「ごめんだとか責任だとか、そんなの私が惨めになるだけよ……だったらそんなのいらない!」
「……あ……」
「帰ってよ……!もう……」

ガツンと頭を殴られたような衝撃だった。
私は馬鹿か。
何も学習していない。
一番に伝えるべきことは、そんな謝罪の気持ちではなかったはずだ。
意を決し、震えているパチュリーの目の前まで歩く。
今だ布団を団子のようにして隠れているが、それを一気に剥ぎ取った。

「……なに――――んっ」

――やわらかかった。
現れたパチュリーの身を引き寄せ、強引に唇を奪った。

「ん……ふぁ……!」

貪るように、その柔らかな唇を何度も何度もついばんだ。
脳髄がとろけるほどに、没頭していく。
もっと、もっとと身体がそれを求める。

「んちゅ……ま、待っ……んむ……!」

ベッドの上に押し倒し、また何度もキスを交わした。
ギシギシと軋むスプリングの音が、その行為をさらに加速させていく。
パチュリーは苦しいのかシーツをぎゅっと握り締め、目を閉じて身体をよじった。
呼吸はどんどん荒くなり、酸素が足りなくなるまで執拗に続ける。

「はぁ……はぁっ」
「よ、妖夢……はぁっ、ふぁ」

ようやくその唇を離すと、少し潤んだ瞳がこちらを見つめていた。
今は、その瞳がたまらなく愛おしかった。

「……最初に言うべきでした。私は、パチュリーさんのこと好きです。もうどうしようもないくらい大好きです」
「あ……あぅ……」

キスで真っ赤になった顔がさらに赤くなる。
プイ、と横を向き、目を合わせないようにしたパチュリーは

「……い、一日待った分は、返してよ?」

と、ぶっきらぼうに言い放った。

「もちろん、倍にして返しますよ」

有無を言わさず抱きしめる。
そのままパチュリーの長い髪の匂いを嗅ぐと、シャンプーのいい香りがした。
鼻腔をその香りで満たすだけで、頭の中が痺れたようになり、何とも言えない気持ちよさがこみ上げる。

「いい匂い……」
「もう、妖夢ったらまた……なんだか変態みたいよ?」
「変態でもいいです。もう今はパチュリーさんのことで頭がいっぱいなんですから」

首筋を舐めた。
ひゃん、とパチュリーが声を漏らし、私の背中に回した腕の力が一瞬強まったのを感じた。
そのままキスを首から頬、そして目蓋を通り、最後に唇に落とす。
そろりと舌を出して閉じた唇をノックすると、パチュリーもそれに応えて自身のものを出してきてくれた。
舌先が絡み合う。
ぬるりとした唾液を流し込み、流し込まれ、混ざり合い、互いにそれを味わう。

「んふ……くちゅ……ちゅぷ……ふ、ふぁ……」
「んん……!んく、あ…………」

甘い。
唾液とはこんなにも甘いものだったか。
私は彼女の歯茎を余すところ無く丁寧に舐めとっていった。
口の端からは零れた唾液がとろりと垂れ、頬を伝う。
もう、こうしているだけでも十分なほどに気持ちが良かった。
頭がぼーっとして、自分が何をしているのかよくわかっていない。
どのぐらいの時間キスしていたのか、舌が疲れきってどちらからともなく離れた。
つぅーっと二人の口元に銀色の糸が走る。

「んぷぁ……!はぁ、はぁ……ふぁ、あぁ……よぉ、む……」
「はぁ、あ……ぁ…………」

淫靡な糸は二人の間を結んで、そして消えていく。
少しの間、恍惚とした表情を浮かべていた。
このままパチュリーを離したくない。
ずっとずっとこうして触れ合っていたかった。
パチュリーの口元をべとべとにしている様を見て、自分がやったんだと再認識して、彼女をこんなにしていいのは自分だけなんだと思うと、頭の中のネジが何本か外れて馬鹿になったかのように幸せだった。

「ねえ……妖夢、もっと……」

パチュリーはネグリジェの裾を押さえながら恥ずかしそうに懇願する。
その姿にくらっと来ない奴がいるのだろうか。
キスするだけでこんなになるのに、もっと先へと促された。
そうなったときどうなるかは、ちょっと想像できそうにない。
幸せすぎて残りの半分も死んでしまうのではないかと思う。

「いい……んです、か?こ、これ以上はちょっと、今我慢できそうに無いん、です、けど……」
「これ以上待てなんていわれたら、また泣くわよ……ばか」
「、――――っ」

最後のばか、でかろうじて残っていた理性が音を立てて崩壊した。
ああ、無理、もう無理だ。
我慢なんてどう足掻いたってできやしない。
ばかなのはどっちだ、もうどうなっても知らない。
ネグリジェの裾を胸の位置までゆっくりたくし上げる。
ピンクの可愛い下着が見え、衣擦れの音が響く中、ブラジャーを外す。
幸いにもフロントホックタイプだったので外すことは容易だった。
露わになったパチュリーの胸に、まるでこわれものを扱うかのようにゆっくりと触れ、乳首にはあえて触れないように揉んでいく。
パチュリーの胸はあまり大きくはなかった。
といっても私よりは十分にあるので、羨ましかったりもする。
時たま、んっ、という声がパチュリーから洩れ、その声を聞く度、身体の中がじんじんと熱くなってきているのを感じた。
うなじのあたりの匂いを嗅ぎ、耳元でいい匂いですよ、と囁く。
それに反応してか、パチュリーは恥ずかしそうに身をよじった。

「ばかぁ……この匂いフェチ、変態……!」

もはやその反応すら誘っているとしか思えなかった。
ええ、変態です。変態ですとも。

「パチュリーさん限定の、ね」

パチュリーは一瞬目を見開いたかと思うとそっぽをむいた。
本当にこの人はわかりやすくて可愛らしい。
こっちを見ていないのをいいことに、左耳を唇でやさしく食んで、ちろちろと舌を当てる。
わひゃ、と変な声を出したかと思うと、いやいやをするように首を振った。
けれど止めるなんてできない。
もうここまできたら止められない。
悪いのはこんなにも可愛いパチュリーだ。

「ちゅ……ん……」
「うぁ、や、っく……、よぉむぅ、んぁ……!それ……だ、めぇ!」
「はむ、ちゅぷ…………耳、弱いんですか?」

じゃあもっと、とさらに耳を責め立てる。
加えて左手で弄んでいた乳房から一度手を離し、乳首を摘んだ。
ビクン、とパチュリーの身体がはね、小さな嬌声が上がる。
構わず耳から首筋、鎖骨までを同じように食んでいく。
パチュリーは私のものだと主張するように、全身に触れてやりたかった。
そしてそれはようやく胸に到達し、左手で片方の乳房をいじりながら逆の方の乳首を赤子のように吸った。

「…………っ!!」

コリコリと乳首をいじり続けているうちに、一際大きくパチュリーの身体がはねる。
それを見て口を離すと、とろけた表情のパチュリーが虚空を見つめ、息を乱していた。

「まだ上半身だけしか触ってないのに、軽くイっちゃいました?パチュリーさんって感じやすいんですね」
「はぁ……は、お、おかしい、のよ……。今まで自分でしてるときはこんな……こんなの妖夢じゃなかったらならないのに…………」
「……いつも自分でしてるんですか。何を想像してしてるのか、興味あるんですけど」
「あ……っ、そんなの言わないわよ、ばか!」
「あはは、ばかって言われてばっかりですね」
「……ばか」

おかしいのは自分もだった。
どんなに激しい修行をしてもこんなにも身体が火照ったことは無い。
身体の奥からじんじんと疼くような感覚があり、その熱が私を突き動かしていた。
すぅっとパチュリーの下半身に手を伸ばす。
下着を着けたままのそこに指を当てると、

「ひぁ――――っ」

くちゅりと、いやらしい水音を立てた。
見るともうシーツまで染みが広がっていて、下着は意味を成していない。

「もう、びしょびしょです、ね」
「やあ……」

下着の上から秘部をいじった。
くにくにと、中指で押し込み、時たますり潰すように指を回した。

「んっ、は、はぁぅ……!ひぅ、あん、んんっ――!」

動かすたび、パチュリーから押し殺そうとした声が漏れ出す。
我慢できなくなったのか、どんどんその声が大きくなって、ビクビクと痙攣しだす。
どんどん、どんどん反応が大きくなっていく。

「―――――――――――ッ!!」

完全に達してしまったのだろう。
背中を弓なり反り、声にならない声が上がった。
愛液ですっかり濡れてしまった手を、パチュリーの目の前でぺろりと舐めた。

「ん……おいしいですよ、パチュリーさんの」
「はぁ、あ……そんな……はぁ……言わ、ないでよ……」

パチュリーは真っ赤になって腕を額に乗せ、肩で息をしていた。
そのうちにと、びしょ濡れになった下着をずらす。
溢れ出した愛液はにちゃあ、と音を立てて糸状となり、そのあまりに淫靡な光景にまた目の前がくらりと揺れた。
魔女は人を狂わせるというが、これほどまでの狂気は、月の兎の力を持ってしてももたらすことはできまい。
ずらした下着から片足だけ外し、現れた秘部に顔を近づけた。
すんすんと匂いを嗅ぐと、パチュリーはやっぱり匂いフェチの変態じゃない、と罵ってきた。
それを無視して舌を這わせる。

「あっ――ま、待って、さっきイったばかりで……!」

そんな言葉には聞く耳持たず。
罵るほうが悪いのだ。
ずずっと音を立てて愛液を啜った。
啜った時の振動が響いたのかくぅ、と喘ぎ声を出し、同時にぎゅっと太ももが締められ、頭を挟まれる。
もう呂律が回らないのか、パチュリーは待ってとかやめてとか舌足らずに連呼する。
が、目の前の光景に私は衝動を押さえきれず、舌を割れ目に挿し入れた。

「――ぃ、ああああぁ!!」

パチュリーは今まで見たこともないほど、大きな声を上げて乱れた。
ぺちゃぺちゃと音を立てて舌を抜き挿しするたびに淫らな声が上がる。
陰核を舌で押し潰し、あふれて来る露を綺麗に舐め上げる。
――――どれくらいの時間、そうしていただろうか。
悲鳴のような嬌声と共にふっ、とパチュリーの脚の力が緩んだ。
ふと顔を上げると、パチュリーは全身を痙攣させ、酸素を求めて喘いでいた。

「はっ、はぁ……!ぜぇ、はっ……」
「……ん」

舌が痺れて感覚が無い。
一体どれだけ夢中になっていたというのだろうか。
もはやパチュリーの目は焦点が合っていないようにも見えた。

「はぁ……ぁ…………」
「……ひゃちゅりぃひゃん」

大丈夫か聞こうとしたが、疲れ切った舌はそれをさせてくれなかった。
仕方ないので口を閉じてパチュリーの頬をやさしく撫でる。
今にも融けそうな表情で、汗だくの額に貼りついた髪が色っぽかった。

「よぉ……むぅ……」

腕を伸ばしたパチュリーの左手が、右の頬に触れる。
私はその手にそっと自身の手を重ねた。
触れるだけで、すべてが満たされていくような気さえする。
こんなにもこの人が愛おしい。

「よくもやってくれたわね」
「ひゃい?」

頬の手にぐっと一気に力がこもり、引き倒され、馬乗りにされる。
ぱさりと落ちるネグリジェの裾。
口の端をつりあげたパチュリーは、悪魔のような恐ろしい目つきでこちらを見ている。
……なにこれ。

「待ってって言ったのに……。妖夢……ばっかり……この変態!」
「え、あ、あろーひゃちゅりーひゃん?」
「今度は私がたっぷり可愛がってあげるから」
「――――ひゃ」

くちゅ、と下の方で水音がした。
うそ……これ、私の……?
いつの間にこんなに……全然気がつかなかった……。
下着から染みだした私の愛液は既に太ももまで垂れて濡らしていた。

「私はなんにもしてないのに……こんな、に……しちゃって!変態、変態!」

ぐちゅぐちょと派手に音を立ててパチュリーの細い指にかき回される。
発音の機能を失った舌が、それでも無意識に声を出そうと動かされる。

「うぁ、ん!ひゃ、ひゃちゅり……!や、あぁっ!!!!」
「やめてって言ってもやめてあげないわよ?妖夢だってやめてくれなかったんだから」
「ひょん、なぁ……!んっ……!」

パチュリーの様を見てとことん敏感になった私の身体は、少しの刺激で途方もない快楽を全身に流し込む。

「ひぃ……!い、ああああ!ひぁちゅりぃ!や……!ん……くぅ……!」

声を上げるのが恥ずかしくなって、なるべく歯を食いしばり動かないようつとめるが、ショーツの上から指が動くたび、びくんと筋肉が硬直してしまう。
抗う術も無く快楽を叩きこまれた私は、簡単に達してしまった。

「やっ……!!!!ぁ――――っ!」
「今あなたとってもいい顔してるわ、妖夢」
「は……ぁあ…………」

呆然としている隙にパチュリーの手がそっとベストに伸びた。
一つ一つボタンが外れてゆき、ついにブラウスの中からサラシが巻かれた胸と、素肌が現れる。
人差し指が胸部の正中線をなぞったかと思うと、ピッとサラシが切れてほとんど無い胸が露わになった。
普段人に見せない部分を好きな人に見られているという感覚が、とっくにトップギアに入っていた心臓をオーバーヒートさせる。

「あ……あの……らんか…………は、はじゅかし……」
「私にあれだけやっといて今更、よ」

薄い胸板にそっと舌を這わされ、ぞくりとする。
我慢してみるもののどうしても身体は反応してしまうのだ。
目をつむって快楽に耐えていると、いきなり秘裂が外気に当たる感覚がした。

「な――――っ」

脱がされたのではない。
ショーツ自体がいきなり消失していた。

「邪魔だから取っちゃった」
「え……あ……?」

そういう魔法ということだろうか。
湿った肌と火照った身体のせいか、部屋の外気に触れるだけでひんやりとした感触がした。
――が、そこに触れるのは、熱い指先。

「あっ、んくぅ…………!」
「――――入れるわよ?」
「え、ちょ、待っ――」
「やだ」

ぬぷり、とパチュリーの指先が割れ目を押し広げ、入ってくる。
身体の中に感じる異物感に精神が乱される。
動いているわけでもないのにどんどん熱くなってくる。

「もう一本」
「――っ!?」

二本目の挿入。
異物感と熱が二倍に膨れ上がる。
入ってきただけで動かない指先がじれったい。
その間にも愛撫を続けるパチュリーに、どんどん気分だけが高揚してくる。
そのうち異物感と柔らかな快感にも慣れ、呼吸を落ちつけてきたとき、いきなり強く乳首を吸われて思わず身じろぎした。

「――――ふぁ!?」

腰が少し動いてしまったため、二本の指が中で擦れる。
それが意図せぬ快感を産み、余計に身体が動いてしまう。
無意識の反応が連鎖し、とめどない快楽の波が押し寄せる。
止まらないし、もう、止められなかった。

「や、ああっ、ん……!くぅ……ぁん!」
「やだ、妖夢ったら自分から動いて、こんなにエッチなことが好きな子だったの?」
「ぱちゅりぃ、さん……、だか、らぁ!」

腰の動きが止まらなかった。
もっともっともっともっともっと――。
動くたびに昇ってゆく。
どこまで行っても快感に上限が無い。
気持ちよすぎて本能が自分の意思を、理性を遥かに凌駕してしまった。
もう少し……もう少しで昇りつめることができそうなのに。

「うぁ……あ?」

ちゅぷん、と指が抜けた。
いや、抜かれた。
見ると嗜虐的な笑みを浮かべてパチュリーはこちらを見下ろしている。

「お預け」
「はぇ……そん、らぁ……」
「……その顔可愛い……なんか楽しくなってきちゃったかも……」
「……お願い。お願いです、から……!はぁ、早く、早く入れてくださいよぉ……!」
「うーんどうしよっかなー。なんか妖夢一人で夢中になっちゃうし」
「う……あ、ぁ……もう……」

我慢が、できない。

「じゃ、じゃあ、パチュリーさんも一緒、なら……」
「え?ちょっと、――きゃ!?」

馬乗りにされた恰好から、また一気に反転した。
痩身のパチュリーに、魔法使いの華奢な腕だ。
このぐらいは造作も無かった。
倒れこんだパチュリーの左足を持ち上げ、現れた秘裂に自身のそれをあてがう。
双方ともに十分すぎるほどに濡れたそれは、擦り合わせるための潤滑油として存分に機能した。
ぬるぬると滑り、互いの性器が刺激し合い、またどんどんと昇っていける。

「やぁ……!妖夢、よう、むったらぁ……!なんて恰好、させ……!んああっ!」
「はぁ、はぁ……だって、もう、我慢できな……!ふぁあ、あん!」

ずちょ、ぬちょと、この上なくいやらしい水音と共に二人は昇りつめようとしている。
やばい……もう、来る、来る、来る、来る、来る……!
一番恥ずかしいところをこすりつけ合って、気持ちよくなっていく。
そして、それは骨の髄まで侵しつくすかのように全身に快楽を広げ、

「きっ……!い、ぁ―――――――――!!!!!!」
「ふぁ……あああっ―――――――――!!!!!!」

――痺れるような感覚を残し、達した。






「あなたがこんなに強引な人だとは思わなかったわ」
「あ、はは……」

また苦笑いが浮かぶ。
さっきからそればかり責めてくるのである。
いやまあ確かに今になって思い返せば自分でも信じられないぐらいだったけど。
私たちはまだパチュリーのベッドで手をつないで横になっていた。
濡れそぼった下着は穿けず、とりあえず着れる服だけ着てみたものの、なんだか落ち着かないので布団をかぶっているのであった。
さすがにパチュリーの下着を借りるわけにもいかないし、そんなの穿いたら多分また濡れる。

「でも、なんか……なんていうか……幸せ、ですよ……」
「……そ、そゆことしみじみ言わないの」

こっちが恥ずかしい、とパチュリーは目を逸らした。

「あー、もう夕食の時間かぁ。幽々子様大丈夫かなぁ」
「んもう、こういうときくらい幽々子のことは忘れてよね」
「……嫉妬してくれてます?」
「……ばか」

たぶん、赤くなっているんだろう。
意外とわかりやすい人だ。
紅魔館の他の連中も、実はみんな単純なんだろうか。

――自由に、生きなさい。
自由に、か。
少しずつ、少しずつ、自分のやりたいことをやっていこう。
それでもやはり白玉楼の庭師を辞めるつもりは無いのだけど。

「パチュリーさん」
「……ん」
「ひとつだけ、どうしても聞きたいことがあるんですけど」
「なにかしら」

そう、私にはひとつだけひっかかっていることがあった。
それだけがすっきりしない。

「やっぱり自慰するときは私でしてたんですか?」
「……っなこと、言うかばかああああああああああああああ!!!!」

二日連続のノーレッジハンマーに、しばらく寝込んだ。









あとがき
パチュみょんってアリだと思うんだ


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